物事に対して自分なりの考えを持ち、解決を図ることは生きるために重要な能力です。しかし、客観的には未決着の出来事でも「自分の中では完結している」と判断する傾向がある場合、状況によっては本人が生きづらさを感じることもあります。このような自己完結性が自分の子どもに見られることに、不安を感じている保護者もいるのではないでしょうか。
当記事では、自己完結の傾向と関連する可能性がある「自閉スペクトラム症」の概要や、自己完結が多い子どもに見られる特徴について解説します。自己完結することが多い子どもに合った遊びや教育、子育てにおける接し方も併せて確認し、子どもをしっかりサポートできる環境を整えましょう。
1.自己完結をする子どもは「自閉スペクトラム症」の可能性がある?
問題解決能力や自己決定能力などを持っていることは、自分で考えて行動することが求められる現代社会において非常に重要なことです。
しかし、「考え方が独りよがり」「物事を都合よく曲解して結論付ける」などの自己完結傾向が見られる場合、コミュニケーションに何らかの問題を抱えている可能性があります。自己完結傾向のある子どもがすべてそうであるとは断定できませんが、「自閉スペクトラム症」の可能性も視野に入れて対応を考える必要があるでしょう。
自閉スペクトラム症とは、「対人関係での生きづらさ(コミュニケーションの障害)」や「行動・興味への強いこだわり」という特徴を持つ発達障害の総称です。自閉スペクトラム症の明確な原因は解明されていませんが、生まれつき脳機能が他の人と異なることが原因として考えられています。育て方やしつけの影響ではないことを押さえておきましょう。
1-1.自閉スペクトラム症のタイプ3つ
自閉スペクトラム症と考えられる子どもが行う周囲とのコミュニケーション傾向は、以下の3つのタイプに分けることができます。
■自閉スペクトラム症におけるコミュニケーションのタイプ
特徴 | |
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孤立型 |
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受動型 |
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積極・奇異型 |
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2.自己完結が多い子どもに見られる特徴とは?
自己完結することが多い子どもには、共通して見られる特徴がいくつか存在します。しかし、子どもの特徴は個人単位で異なる上に、特徴の程度にも個人差があります。また、共通することが多い特徴として挙げられる事項に当てはまる場合でも、必ずしも自閉スペクトラム症と断定できないことに注意しましょう。
ここでは、これらの留意点をふまえた上で、自己完結が多い子どもに見られる特徴について紹介します。それぞれの特徴への対応・対処のしかたも併せて確認しましょう。
2-1.こだわりが極端に強い
自己完結の傾向が見られる子どもに多い特徴の1つとして、特定の物や場所・行動・ルールなどに強い執着・こだわりを見せることが挙げられます。
■こだわりが極端に強い子どもの特徴(例)
- ・同じことを繰り返す
- ・ルールや習慣の変化を受容できない
- ・新しい環境や見通しがつかない状況を受け入れられない
- ・狭い範囲の特定分野に対して強い興味を持つ
こだわり行動は個人の特性によるものであるため、行動をやめさせようとすると子どもに大きなストレスがかかり、状況を悪化させてしまう恐れがあります。「事前に見通しを立てる」「大きな変更は避け、段階的にアプローチする」などのサポートを行い、できることを増やしていきましょう。
2-2.対人関係の維持が難しい
表情や声色、身振り手振りなど非言語面の理解が難しく、対人関係の維持が難しいことも、自己完結傾向がある子どもに共通する特徴の1つです。
■コミュニケーションにおける特徴的な行動・言動(例)
【幼少期】
- ・あやしても反応が少ない、目が合わない
- ・後追いや人見知りをしない
【学齢期】
- ・場面の空気が読めず、周囲の子どもたちからのひんしゅくを買う
- ・自分の話したいことを相手の反応を考えずに話し続ける
- ・普通に話しているつもりでも、気付かない間に相手が怒ったり不愉快になったりする
表情やその場の雰囲気など、非言語的な理解が難しい場合は、なるべく言葉や動作で分かりやすく伝えることが大切です。また、「あれ」「それ」などの代名詞は避け、具体的な名詞や動詞を意識して使うようにしましょう。
2-3.時間を守ることが難しい
自己完結の傾向がある子どもの中には、「時間に間に合うように出発する」などの時間管理が苦手な子どもも多数います。これは、「時間」という目に見えない概念を理解することが難しいためです。また、時間の理解が不十分であることで、見通しを立てられず不安を感じることも珍しくありません。
時間を守り、予定通りに行動を進めるためには、「いつ」「何をするか」という行動の見通しを明確に伝えることが大切です。時刻を示した時計のイラストのある予定表を用意するなど、時間や活動の予定が視覚的に分かるよう工夫することもおすすめです。
2-4.感覚が鋭い
すべての人には「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」という五感が備わっており、目や耳、鼻、下、皮膚といった体の各部位でそれぞれの感覚を刺激として受け取っています。この刺激が「情報」として脳に伝えられ、脳で処理されることにより、情報を理解できるようになります。
自己完結傾向のある子どもに多い「感覚が鋭い(感覚過敏)」は、情報の受容・伝達・理解のいずれかの段階で過剰な反応が起こることで生じると考えられています。「制服のタグが痛い」「決まった味のものしか食べられない」など、感覚過敏の内容や症状の程度は個人差が大きいため、それぞれに応じた対応を取ることが大切です。
たとえば、制服のタグで痛みを感じる場合、学校や保育園・幼稚園に相談してタグを切るなどの対策を取ることができます。決まった味のものしか食べられない場合は無理をせず、食べられるものを少しずつ増やせるよう、体調の良いときに必要に応じて段階的にチャレンジするとよいでしょう。
3.自己完結をする子どもにはどう接するべき?
自己完結傾向のある子どもは、対人関係・人間関係や日常生活に困りごとが発生しやすい傾向があるため、親が我が子に対して不安を感じることも珍しくありません。特に学校や保育園・幼稚園などで同年代の他の子どもと接することで大きな違いを感じ、悩むケースが多く見られます。
しかし、他者と違いがあることは決して悪いことではありません。「他人と違う」という一点だけでむやみに自閉スペクトラム症や発達障害を疑わず、1つの個性として捉えることも考え方の1つです。その上で、発達障害に関する正しい知識を身につけ、支援につながるための方法や家庭での対応方法を把握しておくとよいでしょう。
3-1.子どもの「得意」を伸ばすことがポイント
自己完結傾向のある子どもは、得意なことや興味のある物事には人よりも高いレベルで意欲的に取り組めるため、優秀な成績をおさめられる場合があります。子どもが苦手意識をもつことや不得意なことは家庭でしっかりとサポートし、子どもが安心感を得ながら得意なことを伸ばせるような居場所づくりを心がけましょう。
たとえば、見通しが立たないことに不安感を持ちやすい子どもであれば、具体的なスケジュールをイラストや写真、文字・色を使った視覚的な説明が効果的です。指示がうまく通らない状態であれば、指示を示した絵カードを使用してもよいでしょう。学校や園の先生に子どもの得意なこと・不得意なことを話し、特性を理解してもらうことも重要です。