卒園や小学校への入学を控えた5歳児は、様々な面でこれまで以上の発達を見せます。できることがどんどん増え、少しずつ自立する子どもの発達が喜ばしい一方で、認定こども園に入れたほうがいいのかなど戸惑いを感じたり、接し方に悩んだりする方もいるでしょう。
当記事では、身体的・精神的・知的な発達状況からみた5歳児の特徴と、5歳児教育の5つのポイントを解説します。5歳児との関わり方に不安を持つ方は、ぜひ参考にしてください。
1.5歳児の特徴|身体的・精神的・知的な発達状況
5歳児の身体的な発達の特徴として、2019年に調査された平均的な身長と体重は、以下の通りです。
身長も体重も男子の数値のほうがわずかに大きくなっていますが、男子も女子もほとんど変わりません。5歳児の身体的特徴は振れ幅が大きく個人差があるため、この数値よりも小さいことで、発達に異常があると想定する必要はありません。
■5歳児の身長・体重
身長(cm) 体重(kg) 男子 110.3 18.9 女子 109.4 18.6
出典:厚生労働省「令和元年度 学校保健統計(確定値)_II調査結果の概要」
5歳児の身体的な発達に伴い、身体の作りがしっかりとしてくるため、運動能力が高まります。体力・筋力・バランス能力などが向上することで、より複雑な動きが可能になったり、大人とほとんど同じ速度で歩けるようになったりするでしょう。手先も器用になるため、ハサミやのりを正しく使えたり、固結びや蝶々結びもできるようになったりします。
1-1.生活習慣・社会性の構築
5歳児の発達の特徴としてみられるものが、生活習慣や社会性の構築です。大人のサポートが必要だったことも、家庭だけでなく幼稚園や保育所で友達と生活をすることで、少しずつ自立して行えるようになります。
■5歳でできること
- 友達と遊ぶことができる
- お箸などの食器を正しく使って食事をすることができる
- 自分で身支度ができる
5歳児は、言語能力が発達して文章を話せるようになってくるため、友達と意思疎通をしながら遊べるようになります。相手の気持ちを考えられるようになったり、喧嘩しても仲直りができたり、冗談を言い合えるようになったりするでしょう。
また、これまでは食べ物を手掴みしたり、遊び食べをしていた子どもも、正しく食事ができるようになります。親だけでなく、幼稚園や保育園で友達からの刺激を受けることも大切です。
家では小さい子どもでも、幼稚園や保育園ではお兄さん・お姉さんとして扱われるようになります。親や先生のサポートがなくても、手洗い・うがいや歯磨き、登園の準備なども一人でできるようになるでしょう。
1-2.大人がルールを守る姿を見せる
5歳児は子どもでありながら、大人の行動をしっかりと見ています。「子どもだから分からないだろう」と大人が考えることでも、5歳児は物事を理解したり、正しいと思ったりします。子どもだからとたかを括らず、子どもの見本となるように大人が正しい行動を見せなければなりません。
■5歳でできること
- 自分から挨拶ができる
- 社会的ルールを守ることができる
今までは周りの人に挨拶をされてから「○○、おはようは?」など、指示され返すだけだった挨拶が、自分からできるようになります。朝目覚めた時や夜眠る時、友達に会った時など、状況に応じながらの挨拶もできるようになるでしょう。
また、生活をする上で必要な、社会的ルールを守ることができるようになります。「青信号になったら手を挙げて横断歩道を渡る」などの交通ルールを自ら守ったり、電車では静かに過ごしたり、お店の椅子に土足で立たずに座っていることができたりします。
1-3.理解力・記憶力の向上
5歳児の傾向として発達すると言われている分野は、論理的な思考や判断、推測などです。図形・位置・色・話の内容などを理解したり、記憶しておくことができるようになったりします。
■5歳でできること
- 数的理解力がついて、ある程度の数を数えることができる
- 時間や曜日などの概念を理解することができる
- 理解したことを長期間記憶することができる
「数」というものを理解して数字を順番に言えたり、物の数を数えたりすることができるようになります。また、「時間」や「曜日」という概念も理解できると、「今日の○日後は□曜日」などが分かるようになるため、予定を立てることなどもできるようになるでしょう。
5歳児は理解力が増えることに加え、長期間の記憶が可能となります。それまでの記憶は、幼児健忘などもあり忘れられていることが多くあります。しかし、この頃に経験したことは、大人になってからも覚えていられるでしょう。
2.5歳児教育の5つのポイント
ここまで、身体的・精神的・知的な発達状況からみた5歳児の特徴を解説しました。しかし、様々な発達をする5歳児の教育を実際どのように行えばいいのか、不安を抱えている方もいるでしょう。
ここからは、5歳児への教育を5つのポイントに分けて解説します。子どもたちのために、何ができるのかを学びましょう。
2-1.自分で考える力を育む
5歳児は、自立性が育まれる時期です。一人でできることが増えていく中で、自分自身で考えて行動できるようにしましょう。
■ものごとや人と主体的に関わる
「考えて発言・行動する力」を身につけることができます。大人は積極的に人と関わる機会を設けて、子どもたちに様々な経験をさせましょう。また、子どもたちの意思や考えに耳を傾けながら、考える姿を十分に認めてあげてください。この時大人は、子どもの考えを否定してはなりません。
■思いやりの心を育む
同じ歳の子どもたちだけでなく、異なる学年の子どもたちや地域の人と交流することで、多くの経験と考えるきっかけを得ることができます。様々な立場の人と接することで、その場面にあった立ち振る舞いや、人との接し方を学ぶことが可能です。
高齢者や障がいなどのハンディキャップを抱えた方と接することで、他人に対する思いやりの心を育むことができます。大人はヒントを与えながら子どもたちに考えさせることで、自分以外の人の「心」に対する理解や想像力・気配りができるようになるでしょう。
2-2.大人がルールを守る姿を見せる
5歳児は大人の行動をとてもよく見ています。理解力や洞察力も身に付いているため、大人は理由を説明しながらルールを守る姿を見せましょう。
■大人がルールを守る
5歳児は、交通ルールや公共でのマナーを理解しながら学んでいく段階です。指導する立場である大人が「大人だから特別」とルールを無視すると、子どもも同じように考えたり、大人の信頼を損ねてしまったりする可能性があります。例外を作らず、正しい姿を見せることが大切です。
また、どうしてこのルールがあるのかを重ねて説明すると、子どもも理解しやすくなります。
■子どもとの約束を守る
大人同士の約束も、大人と子どもの約束も同じです。相手に約束を破られると、嫌な気持ちになったり信頼を失ったりするでしょう。子どもも同じで、大人の勝手な理由で約束がなくなったり、そのことを「しょうがないでしょ」という言葉で片付けたりすると、子どもは大人を信頼できなくなります。
また、子ども自身が「約束は守らなくてよいもの」と思ってしまいます。約束が守れない時は、子ども相手だからと思わずきちんと謝り、理由を説明するようにしましょう。
2-3.小学校での生活を意識する
5歳児は、次の4月には小学生となります。幼稚園・保育園での生活に慣れている子どもたちは、どのような子でも小学校に入学後は今までとの違いに戸惑います。入学前から少しずつ、小学校を意識した生活をしましょう。
■時間を意識する
5歳児は「過去・現在・未来」の概念を理解できるようになります。小学生になると時間割に沿って行動する必要があるため、5歳児の時点で先の見通しを持って動くこが大切です。まずは食事の時間をある程度目標として決めたり、「○時になったら〜しようね。」などと声かけをしたりして時間の感覚を養いましょう。
■自己肯定感を高める
子どもたちにとって、自己肯定感を持つことは重要です。「自分はできる」「認められている」という自己肯定感を持たせるため、何かをやり遂げた時にはしっかりと褒めてあげましょう。
他の子との優劣を決めたり比較したり子どもを否定すると、「自分はダメな子」と思うようになり、自信や探究心を失い、自ら行動することを怖がるようになってしまいます。
2-4.勉強は遊び感覚で始める
小学校に入学する前に、教材で家庭学習をさせるかどうか悩む保護者も多いのではないでしょうか。しかし、勉強の強要は子どもにとっても大人にとってもストレスです。勉強を嫌いにならないように、普段の生活に少しずつ導入しましょう。
■焦って学習を行わない
文字や数字などに興味を持たせる取り組みは大切です。しかし、遊びを中断させての勉強は、勉強嫌いに繋がる恐れがあります。そのため教材などはあまり使わず、日常生活の中で関心が持てるような働きかけを少しずつ行いましょう。
■勉強と遊びを繋げる
言語能力が発達した5歳児にとって、遊びが勉強に繋がることがあります。連想ゲームや伝言ゲームなどの言葉遊びで語彙力や想像力を増やしたり、お店屋さんごっこの商品でお金のやり取りを行ったり、親子で遊びながら楽しく学べる場を設けてみましょう。
2-5.数多くの絵本に触れる
小さい頃から絵本の読み聞かせを行う家庭は多いでしょう。5歳児になると理解力や想像力が鍛えられ、今までとは違った絵本の楽しみ方ができるようになります。
■絵本の読み聞かせ
絵本は言葉の知識を増やし、言葉だけで分からないことを絵で理解できるようになります。5歳児になると情報を理解する力が高まるため、より絵本に入り込めるようになるでしょう。
また、読み聞かせは集中力やコミュニケーション能力を伸ばす場としても成り立ちます。分からないことを子どもが質問したり、登場人物の真似をしたりしたら、読み聞かせを中断して答えてあげましょう。暗記力がついたり、ある程度文字が読めるようになったりすると、子どもが一人で読めるようになるため、その時は大人が聞き手になることも必要です。
■様々な絵本に触れる
世に出回っている絵本には、様々なジャンルがあります。親の趣味などが入り似たような絵本ばかり読んでしまうと、知識としても偏りが生まれます。ジャンルに捉われず様々な絵本に触れることで、多角的に知識を広げましょう。
しかし、子どもが好きで何度も「読んで欲しい」という作品は積極的に読み、好きを尊重することも大切です。読む絵本に迷ったら、名作または図書館のおすすめリストから選ぶとよいでしょう。
まとめ
5歳児は、大人が思っている以上に様々な発達をしています。運動能力や理解力・記憶力が高まり、社会性も身につけ始めた5歳児は、多くの可能性を秘めていることでしょう。
大人は、なんでもやってあげる子育てから、一人の人間として尊重しながらサポートする側に回る必要があります。サポートする側に回る時は、見本となる大人が正しくルールを守ったり、頭ごなしに否定せずに理由を伝えたりすることが大切です。子どもの意見をしっかりと聞いて、自分で考えながら行動できるようにしましょう。
また、小学校に入学するからと、行きすぎた早期教育を行なったり、他の子と能力差を比較したりする必要はありません。一人ひとりに合った方法で、無理のない教育を普段の生活に取り入れることから始めましょう。