子どもを育てるにあたって、幼児教育に興味を持っている人も多いでしょう。子どもの幼児教育において注目を集めている、ノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・ヘックマン教授は、就学前に子どもの非認知能力のスキルを育てることが重要としています。
当記事では、へックマンによる「幼児教育の重要性」や根拠となる研究について解説します。また、子どもの人生に大きな影響を与える非認知能力を高めるポイントも紹介するため、子どもの幼児教育に興味のある人や、子どもの非認知能力を高めたい人は、ぜひ参考にしてください。
1.ヘックマンが提唱する「幼児教育(就学前教育)の重要性」とは?
子どもの教育に関する説はさまざまなものがありますが、現在、ノーベル賞受賞者のジェームズ・ヘックマン教授による幼児教育に関する研究が注目されています。ヘックマンの提唱する説は、「大人になったときに経済的に成功するためには、幼少時の教育が影響する」というものです。
へックマンは、下記の2つの理由に基づき、幼児教育の重要さを語っています。
- 就学前教育は後の人生に大きな影響を与える
- 幼少期に非認知能力を高めることが大切
ここでは、へックマンの語る就学前教育の重要さと、幼少期に非認知能力を高める理由を詳しく解説します。
1-1.就学前教育は後の人生に大きな影響を与える
へックマンは、就学前の子どもを対象とした教育投資に関する研究を行いました。その結果、就学前の教育に力を入れ、子どもの潜在能力を伸ばすことが、後の人生に大きな影響を与えるという成果を発表しています。
へックマンによると、生活の質の向上や、経済的な成功には幼少期の教育投資が重要であり、脳を発達させて忍耐力や計画力を育むことが必要です。
過去に行われた若年層の失業者を対象とした教育投資に関する研究では、失業後に受けた教育プログラムはそれほど大きな効果が得られないという結果が出ました。
へックマンは、3歳から4歳にかけて適切な教育が行われなかった子どもは、その後の学習効果が低下し、教育投資の効果が少なくなると考えています。そのため、大人になって失敗してしまう前に、子どもの頃から適切な教育を行うことが大切です。
また、貧困世帯が社会的成功を収めて貧困から脱却するためには、教育政策や専門家による支援が欠かせません。世帯間における経済力の格差を少なくするためにも、貧困層の教育無償化や保護者への保育知識の啓蒙活動は、世界的に重要な国家政策として進められる必要があるでしょう。
1-2.幼少期に非認知能力を高めることが大切
へックマンは、幼少期に非認知能力を高めることが、その後の人生の成功につながるとしています。非認知能力とは、具体的に下記のようなものです。
- 失敗から立ち直る
- 意欲的に取り組む
- 健全な肉体と精神
- 自分に自信を持つ
非認知能力は、全て「前向きに生きる力」の原動力となります。非認知的能力が高い子どもは人生において何事も前向きに取り組むことができるようになるため、人生の精巧につながりやすいといえます。
2.ヘックマンが根拠にしている2つの研究
へックマンは、自身の説を発表するにあたって、2つの社会実験を科学的根拠にしています。
○へックマンが根拠にした2つの研究の概要
ペリー就学前プログラム |
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経済的に恵まれない3歳から4歳の子どもを対象に就学前教育を行い、教育を受けなかった同じ経済的境遇の子どもと比較する研究。 |
アベセダリアンプロジェクト |
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経済的に恵まれない家庭に生まれた子どもを対象に毎日8時間の教育プログラムを5年間行い、その後の成長を追跡する研究。 |
どちらの研究も、経済的に恵まれず、教育機会が与えられにくい層が実験のターゲットです。また、2つの研究は子どもたちが大人になるまで追跡調査を行っているという点でも共通しています。
ここでは、ペリー就学前プログラムとアベセダリアンプロジェクトについて詳しく解説します。
2-1.ペリー就学前プログラム
ペリー就学前プログラムは、1962年から1967年にアメリカのミシガン州で行われた研究です。対象は低所得のアフリカ系58世帯に生まれた3歳から4歳の子どもで、遊びや自主性を重んじる教育プログラムが実施されました。
研究対象となった子どもたちは、30週間のプログラム期間中に毎日午前中に2時間半ずつ学びます。授業内容は勉強ではなく、遊びによる自主性を重んじる教育が中心です。また、教師による週1回の家庭訪問により、90分間の自主性を高める教育が行われました。
さらに、プログラム対象者と非対象者のグループを40歳まで追跡調査することで、就学前教育を受けた子どもたちは、経済的に成功していることが実証されています。
プログラム対象者は、非対象者と比べて次のような効果が出ました。
- 6歳まではIQテストや学力テストの結果が高い
- 学歴が高い
- 生活保護受給率や逮捕率が低い
上記の効果から、就学前に適切な教育を受けることがその後の人生に大きな影響を受けることがわかります。
また、教育によって得られる内部収益率は7%から10%となり、金融資産に投資するより、教育に投資することが人生におり有益であるという結果となりました。幼児教育に力を入れることは、将来的な経済損失も防ぐこととなるでしょう。
2-2.アベセダリアンプロジェクト
アペセダリアンプロジェクトは、1972年から1977年にアメリカのノースカロライナ州で行われた研究です。対象は平均4.4ヶ月の子ども111人で、8歳になるまで教育プログラムが施されました。その後、12歳・15歳・21歳・30歳・35歳でデータを収集し、幼少時の教育がその後の人生にどのような影響を及ぼすかを調べた、長期にわたる研究です。
子どもたちは小学校に入るまでの5年間、毎日6時間から8時間の授業を受けました。クラスは少人数制で、特に言語教育を中心としています。小学校入学後は親との面談を行って家庭学習の指導を行うなど、家族ぐるみで教育に対する意識を高めた点がポイントです。
アペセダリアンプロジェクトでは、14歳から15歳時点で非参加グループよりもIQが高くなりました。高校卒業率は非参加グループが51%であることに対し、参加グループは67%と非常に高く、低所得層に生まれても、教育次第で大幅な成長が見込めるということがわかります。
大学進学率に至っては、非参加グループがわずか14%だったことに対し、参加グループは35%です。卒業率も23%と高く、最終的な結果では収入の高さや持ち家率でも有利な結果が判明しました。生活保護受給率や逮捕率も低く、就学前教育の重要性を裏付ける結果です。
3.幼少期に非認知能力を育むためのポイント3つ
へックマンの説と、根拠となる2つの研究では、どちらも幼少期に非認知能力を高めることがその後の成功につながるとされています。幼少期に非認知能力を高めるためには、勉強とは違ったアプローチが必要です。
- 子どもの自主性を尊重する
- 友達との関わり合いを増やす
- 愛を持って子どもと接する
上記3つのポイントをおさえた教育を施すことで、子どもの非認知能力向上に良い影響を与えます。
ここからは、それぞれのポイントについて具体的に解説します。
3-1.子どもの自主性を尊重する
子どもの自主性を尊重することは、幼児教育において重要なポイントです。自主性を高めることは、探求心や自己肯定感を高めることにもつながり、大人になってから自分の意思で意欲的に動くことができる人間となります。
子どもの自主性を高めるために気を付けるべき点は、子どもを否定しないことです。子どものしつけは親の役割ですが、ただやみくもに否定しては子どもの自主性を潰してしまいます。
例えば、子どもが壁に落書きをしてしまったとき、ただ頭ごなしに叱ることは否定です。子どもの自主性を尊重するためにも、まず「なぜいけないのか」を説明しましょう。きちんと理由を説明した上で「どうすればよいか」を一緒に考えることで、子どもの自主性が高まります。
3-2.友達との関わり合いを増やす
友達との関わり合いを増やすことも、非認知能力向上のポイントです。
非認知能力とは、社会との関わりを助ける力で、他人とのコミュニケーション能力に大きな影響を与えます。幼稚園・小学校・習い事など、さまざまな場面で友達との関わり合いを増やし、積極的にコミュニケーションの機会をつくりましょう。
自分や家族以外の人とコミュニケーションをとることで、子どもは多様性を学びます。また、目的に向かって誰かと協力して成功させる経験は、自己肯定力や協調性を鍛えます。
子どもの人間関係に親が介入することは最低限にとどめ、子どもの自主性を尊重しながら、周りとの関わり合いを増やしていきましょう。
3-3.愛を持って子どもと接する
愛を持って子どもと接することは、子どもの非認知能力を高める上でもっとも大切なポイントです。子どもは、親から無償の愛を受け取ることで「自分はここにいてもいいんだ」という安心感を得ます。安心感が得られる環境で育つことは、子どもの非認知能力を大きく伸ばす最良の方法です。
愛を持って子どもと接するためには、必ず子どもの目を見て話すようにしましょう。また「今日は何をしたの?」など、親が自分に興味を持ってくれていることがわかるような質問をすることも効果的です。子どもの非認知能力を高めるためには、まず安心感のある子育てに力を入れてみましょう。